【デジこれ09】辞書ユーザを育てよう

デジタル辞書の現在とこれから」第9回は「辞書ユーザを育てよう」。“凡例とチュートリアル”の話です。

※このブログ連載は、2022年7月の日本電子出版協会(JEPA)セミナー「デジタル辞書の現在とこれから」の内容を、(我ながら呆れるくらい駆け足でしたので)補足しながらまとめなおしたものです。

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辞書の記述は約束だらけで、慣れてしまえばとても便利な完成形なのだけれど、辞書引き熟練者以外にとってはとっつきづらいものだろうということは「第5回 平易でわかりやすい説明を」で書きました。多くの人が、あまり凡例(「この辞典の使い方」)を読んでない、という状況は容易に想像できます。暗号解読表なしで暗号通信文に挑むようなもの。「だいたいわかった」が積み重ねられていくのも心配です。

そこで、凡例をきっちり読み込まなくても、逐一参照しなくても、辞書本文に記載されている内容が理解してもらえるように、わかりやすい記述を心掛けましょう、というのが、第5回の趣旨でした。今回はその反対。凡例をもっと活用・理解してもらうために、つまり辞書の敷居を低くして、その真価を知ってもらうために、デジタルでは何ができるか、です。

以前はデジタル辞書での凡例の扱いはかなりぞんざいでした。取扱説明書(紙)に簡潔に記載されているだけで、デジタルコンテンツ内には凡例データが収録されていないという事例もザラでした。現在ではそんなことはほとんどありませんが、デジタル版での凡例の使い勝手をもう少し良くした方がいいのでは?と思うこともしばしばです。

まず、そのデジタル版コンテンツに即した凡例(この辞書の使い方)を用意してほしいと思います。書籍版の凡例をそのまま転載しただけのようなものも見かけますが、デジタル版では記号や文字装飾のほか、改行タイミング等のレイアウトが変更になっている場合も多いので、実際の表示内容に合わせた凡例に作り替える必要があります。

次に凡例の細分化です。メニューなどから「凡例」を選択すると、凡例全文がひとまとまりで表示されるパターンが見受けられます。記号一覧などは分けられていることも多いようですが、凡例内の目次があると便利ですね。

各コンテンツ共用の「このアプリの使い方」と、各コンテンツの「凡例」がそれぞれ独立した形で用意されていることが多いと思います。各種辞書を串刺し検索できるアプリではやや仕方のないことかもしれませんが、「この辞書の使い方」として、より具体的な使い方指南が用意されているが理想です。ゲームアプリなどでよく見かける、序盤のチュートリアルがあっても面白そうです。

どんなに便利・実用的にデジタル版凡例を用意したとしても、使ってもらわないと意味がありません。実際に辞書を使用していてちょっとでも疑問に思った際に、お手軽かつスムーズに凡例(に相当する情報)にアプローチできる工夫はいろいろできると思います。例えば、約物・記号類やラベル類をタップすると、簡単な情報が表示されて(⊗記号をタップ→「特に注意を要する卑語・差別語」とバルーン表示)、長押しすると凡例の該当箇所が表示される(バルーン長押しで凡例の「スピーチラベル」解説に表示切り替わり)といった機能があればいいですね。


【デジこれ10】正確で、より新しい情報を